November 15, 2013
石川雅之 『純潔のマリア』 全3巻
中世の魔女というと、実際には魔法使いではなく、
占い師、呪術師、薬師といった類のもので、
ひどく平たい物言いをすればキリスト教から異端視された
土着の存在だった。
この作品が面白いなと思う点は、
その異端視されていた魔女が人と神の愛を最後に知るという所だ。
異端からの脱却、改心するという話ではない。
周縁にいるからこそ気付けた、人が持っている愛と神の愛はいかなるものか、
天の意に沿わぬとして断罪される魔女マリアがラストで語る。
だからこそ魔女なのにマリアという名前であることは、
言葉遊びではなく、良いネーミングだと感じた。
November 06, 2013
芦奈野ひとし 『ヨコハマ買い出し紀行』 全14巻
今よりも少し海に沈んでしまっている世界の片隅で、
人もまばらな隅っこで、ロボットが空を眺めている。
その昔「月刊アフタヌーン」を読んでいた頃に連載されていた作品。
当時はなんだかよくわからないまったり感が今は心地よい。
天野こずえ『ARIA』と系統は同じだけれど、
『ヨコハマ買い出し紀行』は日々の感じる感覚を言葉少なく絵にしている。
静けさを絵の静けさで表現しているから、
きっと子供の心には物足りなく感じてしまったのだろうと思う。
October 14, 2013
こうの史代 『夕凪の街 桜の国』 全1巻
しあわせと思うたび美しい作品だと思った。
美しいと思うたび
愛しかった都市のすべてを
人のすべてを思い出し
すべて失った日に
引きずり戻される
おまえの住む世界は
ここではないと
誰かの声がする
(P25より)
一方でその清潔さに隠れない原爆が残した残酷な傷跡が、
戦争を知らない世代の僕に戦争が持つ時間では消えない重さを、
そこから生み出る人の感情を恐怖させる。
それでも美しいと感じた。
それはなぜかというとまぁ、ありていに言ってしまえば人間讃歌なのだろうなと思う。
半世紀以上経った今でも戦争の話が消えていくことはないけれど、
戦争経験者の数は次第に減ってきているから、
直接的な記憶の存在は薄れていくように感じる。
だから今度は記録と感情とで作られた戦争という過去の出来事を
今から未来に向けてどう導いていくのか、それを考えなければいけない。
戦争だけではなく、世界だけでなく、自分自身の過去についても、だろう。
少し、今更な感じでこの作品を読んだ。
原作との違いは微々たるものなので概ね流れは同じだった。
最後のシーンは、映画特有のシメみたいなものだろう。
原作を読んで感動したらそれで十分かな。