April 2009

April 30, 2009

有川浩『阪急電車』

阪急電車阪急電車
著者:有川 浩
販売元:幻冬舎
発売日:2008-01
おすすめ度:4.5
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恋の始まり、別れの兆し、そして途中下車……関西のローカル線を舞台に繰り広げられる、片道わずか15分の胸キュン物語。大ベストセ ラー『図書館戦争』シリーズの著者による傑作の連作集。(Amazon)


「美術館には、そこでは語られない物語がある」とは、
世界中の美術館を紹介するテレビ番組のオープニングで、
久石譲の音楽とともにささやかれる言葉。
読み終わってちょっとして、思い出した。


いつも使う電車だからこそ、
あまりに生活感に満ちているからこそ否定してしまいそうだけど、
今同乗している人たちは僕が知るよしもない”物語”を持っている、と思う。思いたい。
それはどうでもいい話かもしれないし、この小説のように少し劇仕立てかもしれない。
読み込んでいる所とは別の場所ではこれが”物語”だとわかっていて、だけど、
いやだからだろう、いつも乗っている電車にこんな物語があるかもしれない、
あったら楽しそうと思ってしまい、まんまと、
ついつい夢を描くように想像しては面白く読んでしまう。

あればいいな、と幸せに読める本。ガタンゴトン。


2009年2月


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April 27, 2009

アレックス・シアラー『スノードーム』

スノードームスノードーム
著者:アレックス シアラー
販売元:求龍堂
発売日:2005-01
おすすめ度:4.5
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まず白と黒の装丁に惹かれた。

表紙をめくった透かしのページにも惹かれた。

謝辞として「ケイトへ」と書いたあとに
「(もちろん)」とあったことにももちろん。


愛の本質よりも、
愛がおかれた状況によって
読者がどれだけその愛に対して
理解、納得、拒否など付加的感情を抱くか。
愛の本質的な部分を違った形として見るか。

読んでいると読んでいる自分を深く見ることになった。



420ページと意外に分厚いけれど、
中盤から一気に読めてしまう。

かなりお勧めの一冊。


2008年暮れ


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April 26, 2009

フィリップ・シャルリエ『死体が語る歴史 - 古病理学が明かす世界』

死体が語る歴史死体が語る歴史
著者:フィリップ・シャルリエ
販売元:河出書房新社
発売日:2008-09-12
おすすめ度:4.0
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歴史に名を残した人物の死体には、
ただ存在を示す歴史遺物である以上に多くの真実が隠されている。
2008年2月頃にもバッハの顔がデジタル復元されたが、
遺物からその人が生前どのような人物であったのか、
またその骨が本当にその人のものであるのか、伝えられている死因は真実なのか。
医学的見地から死体(その多くは骨)を検証していく。
死体がまさに歴史史料となっていく瞬間だろう。
ジャンヌ・ダルク、ルイ17世、デカルトなどが登場。

一部「あれ?だからつまりどうなったわけ?」といった尻切れトンボ的な章もあるのだが、
今後の科学的進化によって明らかになる歴史に興味を湧かせてくれる一冊。

個人的には【「死体を求む!」-解剖と死体探しの小史】が面白かった。
解剖学の発展ともに起こる解剖素材=死体の不足をいかに補ったか。
小史という名の通りいくつもの小さなエピソードを交えて簡単にまとめている。
当然というか、表紙に使われているレンブラントの作品も参照されている。


2008年10月


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April 19, 2009

有川浩 『レインツリーの国』

2009.4
レインツリーの国レインツリーの国
著者:有川 浩
販売元:新潮社
発売日:2006-09-28
おすすめ度:4.0
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きっかけは「忘れられない本」
そこから始まったメールの交換。

 あなたを想う。
 心が揺れる。
 でも、会うことはできません。
 ごめんなさい。

          (帯より)

何も知らないまま、この言葉に惹かれる何かを感じるなら。

この本は何の前情報もなく読まなければいけない。
知らない、ということがとても重要な意味を持っているし、
読み終わってから今度は逆に知っているという状況で読み返すことも大切だ。
そこでやっと「知らない」ということの重大さを見つけられるから。



新宿の本屋さんや垢抜けてない感じ、じっと見詰めてくる仕草といった話は
僕の中である一人の女の人を自然と形作っていく。
こう書くと書かれた本人はいったいどういう解釈をするだろうと
心中むずがゆく苦笑いをしてしまう。


言葉を選ぶ真剣さ、言葉に向かう真摯な態度は
対面よりもメールでは余計に(もしかしたら過剰に)感じられる。
だからだろうか、面と向かって話している時よりも
何かしらもっと大きな、深いものを分かち合っているように思えてしまうのは。
そしてそういうことが事実ありうるということは
話をするようになってずいぶん時が経ってからでなくては確信しきれない。
メールはとても不思議な違和感を、
触感はあるのに手の中には何もないというような感覚を残す。
そのために確かめたくて、確かなものに触れたくて、
そして手を伸ばした時、「本当の意味では理解できない」ことを知る。

けれど
「結局そのめんどくさい彼女のことが好きなんじゃない」(164)
僕も主人公の伸行と同じで
実際はいろんな負担がかかって噛み合わせがずれてしまうのが大抵だろうけど、
ずれ込んでしまうまでは、どうしたって楽しいのだ。
その楽しさを実感しているとき、ふと、
たぶん理解どうこうを超えて近づきたいと思っていることに
気付くんじゃないだろうか。


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April 17, 2009

沢木耕太郎『世界は「使われなかった人生」であふれてる

世界は「使われなかった人生」であふれてる世界は「使われなかった人生」であふれてる
著者:沢木 耕太郎
販売元:暮しの手帖社
発売日:2001-11
おすすめ度:4.5
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このタイトルを一端目にすれば思わず手に取らずにはいられないはずだ。
「使われなかった人生」とはなんだろう、と。

題名と同じ最初の章にはこんな一節がある。
だが、というより、だからこそ、もしこちらの道ではなく、あちらの道を選んでいたらどうなっていただろう、あちらにはこちらと違うどういう人生があったのだろうかと、時に人は、後悔するというのではなくぼんやりと考えることがあるような気がする。それが「ありえたかもしれない人生」への夢なのだ。(12)”

「ありえたかもしれない人生」という言葉は
「使われなかった人生」とは違うと彼は言っている。
どう違うのか。それはこの章を読んでもらえればわかることで、
ただ本当はわからなくてもいいものかもしれないとも思う。
何せこの本は雑誌連載されていた沢木耕太郎による映画評をまとめたものであり、
そこまでタイトルを引き摺り読み通す必要がないのだから。
けれど、やはりこの本には、
いや映画には「使われなかった人生」があるように思えてくる。
そしてそこに自分の何かを重ねてしまう。
かつてあったものやかつてありえたものや。


単純に映画評としてものこの本は魅力的だと思う。
約30作品ほど紹介されていて、
そう思うのは多分私が学生時代にそのほとんどをビデオで見ていたことから、
読んでいるうちに自然とあの映画漬けの日々を思い出したからかもしれない。
月に20本以上、1日5本見るような日もあったあの頃。
ビデオ屋をはしごして探した作品。
作品そのものよりも強くそうした映画の日々を思い出させてくれる。
忘れていた映画を思い出させてくれる。
懐かしく思いながらこの一冊を読むも、
これから見たい映画を探すにもお勧めの一冊。


2008年10月


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April 16, 2009

上橋菜穂子『虚空の旅人』

虚空の旅人 (新潮文庫)虚空の旅人 (新潮文庫)
著者:上橋 菜穂子
販売元:新潮社
発売日:2008-07-29
おすすめ度:5.0
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守り人シリーズ第4作目の文庫版。

次が読みたいなら別版を買えばいいのだけど、
案外この文庫版装丁の絵柄を気に入ってしまったので
ゆっくりと順次文庫化されていくのを待ちながら読み進めていきたい。


第1作目では新ヨゴ皇国、
第2作目はその北方国家であるカンバル王国、
第3作目は新ヨゴ皇国に戻り、
今作は南方にあるサンガル王国で物語は進んでいく。
これまでは国は違えど個人の事情を中心に1作品ずつ物語が展開し完結していったが、
本作から舞台は国家、そしていくつもの思惑を秘めた国家群を内包した
世界そのものへと視点が動いていく。この展開の変化は著者があとがきで書いているように、
”守り人シリーズ”全体の方向性を示し始めたことを感じさせる(示している、
と言われてもまだ全てを読んでいないので確信ではない)。


とは言えこれまでの3巻分で語られたものはずっと根底を同じにしていて、
例えばもう一つの重なった世界である”ナユーグル”は
各国でよく似た違う名前で共通認識されている、という具合だ。
サンガルでは”ナユーガル”となっていて、
この違いにチャグムが気づいた時のセリフに私は著者がもつ文化構造への意識を
私なりに感じた(第2巻、カンバルにおいても似た描写がある)。
またよくよく思い出せば私が生涯読んだ数少ない物語の中では、
世界の中に文化が(もしくは世界そのものが)並列化されているだけに過ぎず、
それらは文字の違い、服装、風習や民族などであり、
けれど歴史という縦の流れの多層構造、
そして何より先時代文化が色濃く現文明に根付いている描写は
なんともいえぬ深みを世界に与えているように思う。



舞台となる世界をしっかり創り上げることで初めてそこにいる人々が”生きる”。
私はそんな風に思っていて、この作品はそんな世界をしっかり持っていると感じている。


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